今の若い世代の中にはマンションが高すぎてとても買えないという方は非常に多いのではないでしょうか?
以下は交易財団法人東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2022年)」が発表している首都圏の中古マンションの成約物件の価格推移です。
現在、首都圏の中古マンション価格は2012年時点の1.8倍になっています。
居住用の不動産は資産になるし、保有したいと考えて探すと価格が上昇しすぎて手が出せないという若い世代の方は年々増加していることと思います。
そのため、現在はマンションを購入するのは一旦保留にして、今後マンション価格が安くなった時に購入しようと考えている方も多くなっていると思います。
このような方達は現在のマンション価格がバブル的だと考えており、価格はいつか是正されると考えているわけです。
今回の記事は証券アナリストである筆者の観点から、以下のポイントについてお伝えしていきたいと思います。
- マンション価格に影響を及ぼす要因は何なのか?
- 現在のマンション価格はバブル的な水準なのか?
- 今後、マンション価格はどうなっていくことが想定されるのか?
マンション価格に影響を及ぼす要因とは?
まずはマンション価格に影響を及ぼす要因について見ていきましょう。
外国人の売買動向
グローバル化が進むにつれて国内の不動産価格に外国人投資家の動向が大きな影響を与えるようになりました。
特に東京は「世界の都市魅力ランキング(GPCI)」では3位にランクインしており海外からの注目が高まっています。
このランキングは界の主要48都市の『総合力』を評価しています。
対象となるのは経済分野、研究・開発分野、文化・交流分野、居住分野、環境分野、交通・アクセスの6分野です。
以下、ご覧いただければわかる通り居住という面でかなり高い評価を得ているのがわかりますね。
また、筆者はロンドンや駐在した経験があるのですが、不動産価格や賃料の高さに驚愕しっました。東京の不動産が非常に安く購入できる点も魅力を高めています。
東京のマンションの分譲価格を100とした場合、各主要都市のマンション価格は以下の通りとなります。
香港 | 211.6 |
ロンドン | 181.4 |
台北 | 138.4 |
上海 | 133.7 |
北京 | 109.2 |
シンガポール | 103.7 |
ニューヨーク | 100.7 |
ソウル | 76.2 |
大阪 | 56.5 |
上記をご覧いただけるとわかる通り、香港、台北、上海、北京といった中華系の地域の都市は既に東京より価格が高くなってしっまっているのです。
彼らからすると自国の不動産は借地権なので完全に自分の資産にはなりません。更に共産党政府の政策次第では、自分たちの不動産が最悪接収されてしまう可能性もあります。
隣国の先進国で不動産を保有できて、なおかつ価格が安い東京の不動産に殺到してきているのです。
この中国系の人たちの購入によって日本のマンション価格が上昇してきているという側面は無視できません。
為替動向
外国人の売買動向をはかる上で非常に重要な指標として為替動向が挙げられます。以下は日経新聞の記述です。
国土交通省がまとめた2023年1月時点の公示地価では、新型コロナウイルスからの経済再開による都心回帰で東名阪の三大都市圏の商業地が上昇した。歴史的な円安で海外マネーも日本の不動産に流れ込み、地価の押し上げ要因になった。
我々日本人は円で生活しているので円での価格の変動が重要になります。
しかし、外国の投資家からすれば自国の通貨建で儲けることができるかということが重要になります。
円安になれば海外の投資家は自国通貨建でみると安く日本の不動産を購入することができるようになります。
1億円のマンションを購入する時の例を考えてみましょう。
例えばドル円が100円の場合はドル建だと100万ドルになります。ではドル高円安が進み200円になった場合はドル建だと50万ドルとドル円が100円だった時の半値になります。
日本円の価格は変わらずとも海外投資家からみると割安になるのです。
つまり円安が進めば海外投資家から見れば割安になるので外国人投資家からの買いが入ってくることになります。
そのため、為替動向が重要になってくるのです。
日本銀行の金融政策の動向
不動産は金額が大きいので基本的にはローンを組んで購入します。
ローンを組むということは借り入れを行う金融機関に金利を支払う必要がでてきます。
金額が大きいので少し金利が変動するだけで支払額が大きく変動するということを意味します。
例えば1億円の物件で金利が1%変われば支払い額が年間100万円変わってきますからね。
その為、金利が低くなれば不動産価格は上昇し、金利が高くなれば不動産価格は下落していきます。シーソーの関係にあるのです。
今後、日本の金融政策がどうなっていくかが非常に重要になっていきます。
ところで不動産投資の場合は変動金利と固定金利が存在します。変動金利はローン金利が変動する代わりに低い金利で提供されています。
一方、固定金利は借り入れ期間中のローンを固定化する代わりに変動金利より高い金利となります。
「民間住宅ローン利用者の実態調査(2021年4月調査)」によると変動金利を選んだ人は全体の76.2%、全期間固定型は3.4%、固定金利期間選択型が13.5%となっています。
上記からわかる通り、年々変動金利の比率が高まっています。変動金利が連動するのは短期プライムレートです。
プライムレートとは金融機関が優良企業に対して融資を行う際の優遇金利のことを指します。
長期と短期がありますが短期プライムレートは「1年未満の短期貸し出し金利」であり、長期プライムレートは「1年以上の長期貸し出し金利」のことを指します。
フラット35のような固定金利は長期プライムレートに連動するよう設計されていますが、変動金利は短期プライムレートに連動するように設計されています。
長期プイライムレートは主に日本の10年物の国債金利がどう動くかが重要となります。
一方、変動金利に影響を及ぼす短期プライムレートは無担保コール翌日物などの短期市場金利を参考に決定します。
つまり、日本の政策金利に影響を受けることになるのです。
因みに固定金利と変動金利の2000年代前半からの推移は以下となります。あとでお伝えしますが日銀が大規模金融緩和を行なっていることで非常に低く抑えられています。
日本や東京の人口推移
当然、日本の不動産なのでメインの買い手は日本人になります。日本人の需要は当然、人口に影響を受けますので人口動向が重要になってきます。
現在、日本の人口は1億2300万人となっていますが2056年には1億人を割り込むレベルまで減少することが想定されています。
ただ、東京という観点でみると見え方が変わってきっます。
東京は現在約1400万人ですが2055年時点でもまだ1200万人以上の人口を保持しています。23区に限れば現在980万人に対して2055年時点でも875万人と約10%しか人口は減りません。
人口減少要因ではありますが、大きな価格低下圧力とは言えないレベルですね。
一番重要となる日本銀行の現在の金融政策をまずおさらい
今までお伝えしてきたことを纏めると以下となります。
今までのポイント
- 外国人の投資資金の流入が重要なファクターになっている
- 上記で重要なのが為替レート
- 金利が下落すると不動産価格は上昇
- 反対に金利が上昇すると不動産価格は下落
- 日本の人口低下はマイナスだが東京23区はしばらく安泰
上記の赤字部分を決定するといっても過言ではないのが日本の中央銀行たる日銀の金融政策です。
今後、日銀の金融政策がどのようになるかを考えていく前に、まずは現在の日銀の金融政策についてお伝えしていきたいと思います。
正直、日銀の金融政策は非常に複雑なので殆どの方が理解していないと思いますので、この期に理解しておきましょう。
マイナス金利政策とは?
一般に生活している方々は日本がマイナス金利政策を取っていると聞いても実感がないかと思います。
別に預金残高が減少しているわけではないですからね。
マイナス金利は我々の預金口座に対して掛けられてるわけではありません。市中の金融機関が日銀に預けている預金の一部に対してマイナス金利が掛けられることになります。
誰しも学校でならった経験があると思いますが、中央銀行は銀行の銀行となっています。
市中銀行は一定以上の金額を中央銀行に預金として預けいれないといけない仕組みになっています。
今までは市中の金融機関が資金需要を見つけられず貸し出しできない待機資金を日銀の預金口座に預け入れることで日銀から利息をもらっていました。
しかし、市中銀行が貸し手を探す努力を怠り日本銀行に預金をして利息を受け取っている状態だと、日本経済にお金を巡らすことができません。
そこで日銀が市中銀行の日銀に対する預金がある一定以上の水準を超えたら罰則的な意味合いで逆に利息を払わせるという仕組みをマイナス金利政策と読んでいます。
わかりやすく図解すると以下ですね。
ただ、一応日本の政策金利は▲0.1%となっています。
住宅ローンの変動金利に影響を与える短期プライムレートは政策金利に影響を与えるので、このマイナス金利がどうなるかは重要な争点になってきます。(呼応術)
YCC(=イールドカーブコントロール)とは?
伝統的な金融政策は基本的に翌日物無担保コールレートを操作する手法をとっていました。つまり超短期金利だけを操作目標としていたわけですね。
つまり翌日物の超短期金利は操作するものの短期金利から長期金利までは市場原理に任せるという手法を取っていました。
しかしリーマンショック後に先進各国が始めたQEは長期債などの債券も購入対象としており意図的にイールドカーブ全体をコントロールすることを目的とした金融政策となっていました。
イールドカーブとは短期債から長期債までの金利をプロットして繋げた線のことです。
このようなイールドカーブ全体を操作しようとする政策を非伝統的な金融政策と呼びます。
米国のFRBや欧州のECBに遅れること数年、日銀も非伝統的な金融政策をアベノミクスで2012年から開始しました。
しかし、日銀が買い入れすることができる国債には上限があります。なぜなら日銀は市中の金融機関から国債を購入しているからです。
以下の通り預金取扱期間(=市中銀行)が保有する国債は2012年以降に激減して、代わりに日銀の保有する国債は激増しています。
このままでは購入できる国債が早々に枯渇するとして2016年からイールドカーブコントロールを導入しました。
イールドカーブコントロールという名前ですが実態は10年債の金利のみを操作するというものです。イールドカーブ全体を操作するわけではないので国債買い入れ額を抑えることができます。
イールドカーブコントロール政策は10年債金利をゼロ%程度に抑えることを目標にしています。
近年は日米の10年債の金利差が為替レートに多大な影響を与えるようになってきました。
そのため、イールドカーブコントロールの行く末が非常に重要になってきます。(後述)
今後のマンション価格の見通しとは?暴落はくる?
では本題の今後のマンション価格の見通しについて考察していきましょう。
今後の為替動向はどうなる?
まずは為替レートの動向について考えていきましょう。為替が円安に進むと外国人からみて安くなるので大量の資金が流入しますからね。
為替レートを見るときに代表的なドル円で考えていきましょう。
近年、ドル円は日米の10年債の金利差にほぼほぼ連動しています。
赤:ドル円
青:米10年債金利-日本10年債金利
つまり、今後日米金利差がどのように推移するかがドル円の趨勢を決定するということになります。
では今後、米国と日本の10年債金利はどうなっていくでしょうか?
米国10年債金利の今後の見通し
まずは米国債金利です。以下は超長期の米国10年債金利の推移です。
1980年代からずっと低下傾向だった10年債金利が2020年を底として転換しています。
これは米国を中心に発生したインフレに起因しています。2020年に発生したパンデミックを救済するために世界中でバラマキが行われた結果1970年代以来のインフレが発生したのです。
このインフレを抑えるために米国をはじめとした中央銀行が金利を引き上げたことで長期金利も上昇しました。
1970年代はインフレ発生と金利引き上げを繰り返して、計3回にわたってインフレが発生して金利は上昇の一途を辿りました。
2021年後半から始まったインフレの第1波は沈静化しましたが、2023年8月時点で既に第2波の足音が聞こえてきています。
インフレというのは一度猛烈に発生すると粘着する傾向があるのです。
米国では最近はエネルギーや食品価格の低下でインフレが収まっているように見えていますが賃金インフレなどの基調的なインフレは依然として高い水準です。
そして、直近エネルギー価格や食品価格の反発も始まっておりインフレ再燃が本格的に意識されています。
実際、債券市場では一旦金利が下落する構えを見ましたがインフレの再燃を見据えて再び金利が上昇し始めています。
以下は米国10年債金利の週足です。再び昨年の高値を抜ける構えを見せ始めています。債券市場は最も冷静で賢者が多い市場なので、彼らがインフレ再燃を見越しているということです。
今後さらに米金利が上昇する可能性を真剣に考えたほうがよいでしょう。米国債金利が上昇するのはドル円の上昇要因で不動産にはプラスの影響になります。
日本の10年債金利の今後の見通し
では次に日本の10年債金利はどうなるでしょうか?
さきほどお伝えした通り、現在日本銀行はイールドカーブコントロール政策で10年債金利を0%程度に固定する政策を敷いています。
しかし、日本にもインフレが発生するなか日本の10年債にも上昇圧力が2022年からかかっています。
ヘッジファンドが金利上昇にかける国債の空売りを行い、防衛するために日銀は過去最高額の国債買い入れを2022年に実施しました。
そして、さきほどお伝えしたとおり日銀が購入できる国債には限界があります。
市中金融機関が保有する国債から買い取っているので、市中金融機関が保有する国債が枯渇したら買い入れができなくなります。
そのため日銀は2023年7月にイールドカーブコントロールを修正しました。
あくまで10年債金利の誘導目標を0%で維持していますが上限を今までの0.5%から最大1%にまで引き上げました。
今まで設定していた上限の0.5%は目処という表現に切り替わりました。
10年債金利が1%付近まで上がれば市中の金融機関の買いも入ってくるので日銀だけで支える必要がないからですね。
つまり現在0.5%の日本の10年債金利は最大であと0.5%上昇する可能性があるということです。
ただ、逆にいえば、あと0.5%しか上昇する余地がないということを意味します。
今後円安は更に進む可能性はあるのか?
ではここまでの話を纏めると以下となります。
纏め
- 米国の金利は今後もインフレ2波を見据えて上昇する可能性が出て聞いている
- 日本の金利も上昇することが見込まれるが最大0.5%程度
- 日米金利差は拡大する可能性が十分ある
1970年代のようにインフレが何度も押し寄せる度に金利差は拡大をしつづけドル円は上昇する圧力が高くなります。
ドル円が昨年の152円を超えて200円に向かっていく可能性は十分あるのです。
そうなると外国人からの買いが殺到して日本の不動産価格は円建で上昇していくことになります。
日本の変動金利はどうなっていくか?
次に重要な日本人の購買意欲に関わるローン金利についてお伝えしていきます。
変動金利の比率が76%、併用型と合わせると90%になるので変動金利の動向が不動産価格に大きな影響を与えます。
そのため変動金利が連動する短期プライムレートの元となる政策金利の動向が重要になります。
政策金利はさきほどお伝えしたとおり、一部マイナス金利となっています。このマイナス金利については金融機関の収益圧迫もあり批判が多くなっています。
どこかのタイミングでゼロ金利へと修正される可能性はあるのですが、それでも引き上げ幅は0.1%です。
変動金利が0.1%程度上昇したところでさほど大きな影響はないと考えるのが自然でしょう。
日本は巨額の債務を抱えているので、それ以上の利上げは利払い費の増加を伴うのでなされないと想定されます。
さらに政策金利の引き上げは住宅ローンを組んでいる日本人に甚大な被害を与えるため、非常に慎重に行われることが想定されます。
大きな幅での利上げを行うと家計が破綻する世帯が続出して日本経済が壊れてしまいますからね。
政策金利0%までのわずかの利上げはありうるものの、大きな売り圧力とはならないでしょう。
今後リーマンショックのようなリスク資産が全て暴落する事象は発生するのか?
とはいえリーマンショックのような金融ショックが発生すると株式のようなペーパーアセットから不動産のような実物資産まで幅広く価格が暴落します。
しかし、2020年のコロナショックや2023年3月の米国の地銀ショックで確信しましたが、今後リーマンショックのような事象はそうそう発生しないと考えられます。
未来は不透明なので当然断定はしませんが・・・。
理由は何か危険な兆候があったら中央銀行と政府が一体となって深刻な危機になる前に救済を行うという姿勢を見せ続けているからです。
コロナショックの時は即座に大規模な利下げを行い、債券を購入して景気を下支えして給付金をだし経済も支えました。
さらに今年の3月に発生した地銀ショックでは、米中銀のFRBが地銀の抱える損失を肩代わりして危機を乗り切りました。
政府と中央銀行が協調して緩和と財政出動を発動させれば目先の大きな危機を回避することは可能であることを証明してしまったのです。
その代わりに、紙幣の量が増大するのでインフレが発生してしまいます。
インフレが発生するということは資産価格が上昇を招くので不動産価格の上昇も招くことになります。
暴落だけを期待して機会をまっていたら、いつまでも上昇する不動産価格を指をくわえて見ているしかできなくなるのです。
まとめ
今回のポイントを纏めると以下となります。
必要なモノ
- 今後もインフレ2波発生により日米金利差拡大によって円安は続く可能性が十分ある
- 円安により外国人からの買いは断続的に見込まれる
- 日本人のほとんどは政策金利に連動する変動金利でローンを組んでいる
- 政策金利の引き上げ可能幅は少なく暴落を招くまではいかない
- リーマンショックのような暴落は政府と中央銀行の協調がすすむ現在では発生しにくい
- その代わり紙幣増刷によるインフレで不動産や株などの資産の価格は上昇していくことが見込まれる
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